概要

地球に到来する一次宇宙線の到来時間がランダムでPoisson過程に従うなら、 観測される一次宇宙線の到来時間間隔分布は 時間間隔が増すに従いイベント数は指数的に減少する。 一般に一次宇宙線の到来時間はランダムであると考えられているが、 上記の分布に従わない一次宇宙線到来時間のノンランダム性の存在を示す 観測結果が過去に幾つか報告されている。 しかし一方でそれらを否定する報告もあり、 現在までノンランダム性の存在の明確な証拠は得られていない。

我々は大阪市大宇宙線観測所において、空気シャワー観測装置により 超高エネルギー一次宇宙線による空気シャワーの連続観測を行なった。 本論文では、解析の結果得られた一次宇宙線到来時間のノンランダム性の有無 について報告する。

岡山県三石にある大阪市大宇宙線観測所では、地上の空気シャワー検出器と旧国鉄 トンネル内に置かれたミュー粒子検出器を連動させ、エネルギーが 10の14乗から10の16乗電子ボルト近傍で かつミュー粒子を伴う空気シャワーの連続観測を行っている。 今回'89年1月から'96年10月までに得られた約7.8年間のデータを解析し、 各空気シャワーの到来方向、サイズ、空気シャワー中のミュー粒子数等を 求めた。 一次宇宙線到来時間のノンランダム性を調べるため、 Buccheri等 が考案したクラスター解 析方法を改良し、'89年1月から'96年10月までの約2427日間に 観測された 3,651,358個の空気シャワーの到来時間間隔データに適用した。 その結果、5つのノンランダムイベント(Clustered Events)が見つかった。 これらのイベントは、継続時間が数十分から数十時間のオーダーと 長時間にわたり空気シャワー頻度が少し上昇し、 かつある値(60秒〜320秒)以上の到来時間間隔の切れ目を持たない 現象であった。 これらのイベントがランダムな現 象の変動の結果起こったとすると、その各々の期待値は 約2427日の観測時間で0.0018〜 0.04 個であり、偶然に起こったイベントとは考えられない。 また、これらのClustered Eventsを形成する空気シャワーのサイズやエイジパラメー タ、空気シャワー中のミュー粒子数などに特徴はなく普通の空気シャワーによ ってClustered Eventsは起こったと考えられる。 更にClustered Events内の空気シャワーの 到来方向を調べると、銀緯 25度以内の銀河面上の 2つの領域(銀経60度〜 90度、 150度〜180度)に集中していた。 5つのClustered Evetnsがこの領域に同時に偶然入る確率は1.6%である。 以上の結果から一次宇宙線中にはPossion過程での変動では説明のできな い、長時間にわたって到来頻度が少し増加する現象(Clustered Events)が 稀に起こることがわかった。

これらのClustered Eventsの起源は、その到来方向の偏りから 銀河の腕と何らかの関係があると推測される。 その一つの可能性として銀河面内の加速領域で相対論的エネルギーまで 加速されたダスト粒子(宇宙塵)が考えられる。 Clustered Eventsは相対論的エネルギーを持った複数のダスト粒子が 太陽系に突入したあと、太陽放射や太陽風などの衝突によって崩壊し、 更に多数の二次ダスト粒子 を形成してそれらが一群となって地球まで到来した現象であると思われる。